フィンランドで外国人として暮らすこと


1. はじめに

2016年の秋にフィンランドに来てから4度目の長い冬も終わり、そろそろ誰もが待ちわびる短い夏を迎えようとしている。

大学院進学のためにこの国へ引っ越して来た当初は、卒業後は日本へ帰るのか、もしくは留まるのか決めてなかったが、気づいてみればこの秋で在フィン歴も丸4年。実は日本から一番近いヨーロッパの国で(ロシア除く)、世界幸福度ランキング上位の常連国で、外国人として暮らすことのアレコレを、思うがままにシェアしたいと思う。

ちなみに、日本もフィンランドも両方好きでそれぞれ良いところがあるけど、当面は住みやすいフィンランドにいたいなあというスタンスなので、どちらかのみを持ち上げてるわけではない。


2. 一言でいうとRPGライフ

“Life is like a box of chocolates. You never know what you’re gonna get”人生はチョコレート箱のようなもので、開けてみるまで中身はわからない)というのは映画・フォレスト・ガンプの有名な台詞だが、これまでの4年間のフィンランド生活もそんな感じのような気がする。

新しい生活を始め、その中で問題が色々出て来て、出会った友人の助けや自分の踏ん張りで解決して、そしてまた次のチャレンジがやってくる、ということの繰り返し。その中で、少しずつ目の前のゴールをクリアしていき、少しずつ生活基盤を築いていく。例えるならば、自分を主人公にRPG (ロール・プレイング・ゲーム)をしているような感じ。

例えば、滞在許可 (VISA)。これは在外邦人の多くが頭を悩ます問題だと思う。大学院を卒業してからは、もちろん一定期間を過ぎれば学生VISAが切れることもあり、仕事を得て労働VISAに切り替えなければいけない。限られた期間内に仕事が見つかるか。いざ働き始めても、もし何か起きて仕事がなくなれば、この国にいられない可能性もある。もうあと3年ほどこの国で働けば永住VISAが取れるけど、滞在許可が首の皮一枚で繋がってるような、あのなんとも言えない不安感を感じた日々は、今思えば良い経験だった。

今はありがたいことに、毎朝美味しいコーヒーを飲み、働きやすい環境で仕事に打ち込み、ちょいと疲れると森や湖に行き気分転換、そしてサウナで癒されるということが当たり前にできる充実した生活環境がある。フィンランド人ともわりとウマが合う。それらが、フィンランドにこれからも住みたいと思える大きな理由でもあるが、そんな中でも、今後どうすればもっと強い生活基盤を築けるか、外国人としてのいろんなリスクを減らせるか、そういうことは毎日のように考えているように思う。

特に新型コロナウイルスがヨーロッパでも流行し始めてからは、家族のいる日本を離れて暮らすことの意味や、今後のキャリアやお金のこと等を考え直す良いきっかけになった。

日本とは8000kmほど離れていても、フィンエアーの直行便が日本の5都市へ飛んでいるという便利さもあり、これまで毎年1回は日本に休暇や出張で帰っていたし、身近に感じられた。ただ、新型コロナウイルスにより国境が封鎖され、フィンエアーとJALの日本便も運航停止。もし今日本の家族に何かあった場合、そんな簡単に帰れないという不安感は、自分と同様、多くの在外邦人も感じたと思う。

こういう状況の時に、フィンランドに住んでいて良かったと思うことは多い。政府からの支援も充実していて、たいていの申請もオンラインでサクッとできる。日本でも話題になった34歳の若きサンナ・マリン首相 率いる政府からのガイドラインもクリアーでわかりやすい。

ただ、「フィンランドは高福祉の国だから大丈夫」と言う人もいるけど、コロナ禍で政府の負債も増えたことで、今後更に税金が上がる可能性もある。今ほど社会保障へお金が使われるかもわからない。今後どうなるかわからないからこそ、国や会社に頼りすぎないようにはしたい。だからこそ、収入源を複数確保することであったり、資産管理であったり、そういうことについても考えるきっかけになったと思う。

この国で生活基盤を築くこと、QOLを高めること、そういったことは仕事を通じて得られることが多い。異国で暮らすにあたり、働くことがいかにポジティブなサイクルを回す原動力になるか、フィンランドで大学院を卒業し仕事を始めて感じることが多い。異文化で仕事をして、新たな人に会い、いろんな経験やスキルを得て、職場で自分の価値を証明していく。悔しい思いをすることがあっても、これはここで外国人として暮らす生きがいのひとつでもある。

仕事や就職といえば、フィンランドは世界でもワークライフ・バランスが充実した国としても知られていると思うが、実はわりとコネ社会。加えて、フィンランド語がまだ流暢に話せないというハンデもある中で、いかにマーケットに対して自分をアピールするか、他のフィンランド人ではなくなぜ自分を採用すべきなのか、「サードドア」的な考えも実践したほうが上手くいきやすい。仕事においても、日本人らしさは生かすけど出しすぎない、SmartでありつつもWiseでもあること。毎日そういった経験を得られていることは、自分の財産になっていると思う。

他に、特に外国人として海外に一人で住むにあたって日々痛感することは、心身の健康の大切さ。しっかり食事をして、しっかり睡眠をとって体調管理することは、特に大事な仕事のひとつかもしれない。島田紳助さんが、かつて娘さんの留学前に、『才能あるものは、ひとつでも欠点、35点以下があってはならない。健康管理も才能のひとつである』と伝えたらしいが、そう言いたい気持ちもなんとなくわかる。まずは自分の生活を大切にしようという意識は確実に強くなった。

海外在住数十年という人に比べると、4年間というのはさほど長いわけでもないが、良くも悪くも自然と達観的な視野を持つようになった。いろいろあっても、最後には成るように成るし、それを見ていて助けてくれる人も必ずいる。細かい先々の計画ばかり追うよりも、まずは目の前の一瞬一瞬を楽しんで打ち込むこと。

「ジョジョの奇妙な冒険」の中でも紹介されていたが、ノルウェーには ”It is the great north wind that made the Vikings.” (北風が勇者バイキングをつくった)ということわざがあるらしい。難しい状況とか難易度の高い仕事とか、いずれ回り回って自分の経験とか力になるであろう、そういう「北風」に乗りながら、そしてその状況を極力楽しみながら、これからも毎日暮らしていていきたいと思う。


3. 世界一幸せな国か?

国連が毎年発表している世界幸福度ランキングにおいて、フィンランドは2018年から2020年まで3年連続1位の座を獲得した。日本でもニュースになったので、知っている人も多いと思う。

ちなみに2020年度版では、日本は62位とさっぱりしない結果だが、フィンランド人が日本人に比べて極端に幸せそうに毎日を送っているように感じられるかというと、別にそうでもない。

そもそもこのランキングは、国民に今の幸せの評価を聞いた調査と、国のGDPや社会的支援、健康寿命、人生の選択の自由度、社会的寛容さ、社会の腐敗度といった要素の合算で計算されている。

それを踏まえて個人的には、フィンランドは世界一幸福な国というより、幸せになるための障害が低くて、同時に不幸な状況にもなりにくい環境がある国だと感じる。その充実した社会システムのおかげで、たいていの人がある程度の生活水準の暮らしができるし、学生は安価で学生生活を送ることができるし、何かあっても政府のサポートが受けられる、という安心感もある。

だから、他国よりは年齢や性別、社会ステータスへの縛りが少なく良い暮らしを送れる性質があって、それがこのランキングにも現れているだろう。言い換えれば、「今を生きることに集中しやすい環境」が整った国だと思う。確かに、国からのサポート含めて、社会がいろんな面で国民に寛容であって、正直日本人的には甘いなあとか、歯がゆいなあと思う場面が多いのも正直なところよくある。でも、自分で人生の選択をして、年齢に関係なく自分の満足度が高まる時間の使い方をする人は多いし、それがやりやすい環境があるのは確か。

そんな3年連続で世界一幸せな国認定をされたこの国だが、もし世界都会度ランキングやエンタメ度ランキングがあれば、間違いなく上位には入れない。(ちなみに、グルメ度でも。。。)エンタメの幅は少ないからこそ、いろんなものに好奇心を持たないとやってられないし、日々の暮らしに小さな工夫を加えて、些細なことを楽しむのに長けた人は多いと思う。ちなみに、ヘルシンキに遊びに来てくれた日本の友人から好評なのは、森へハイキングしてのBBQやブルーベリー摘み、もしくはサウナやカフェ巡りといったところ。

首都のヘルシンキですら、観光に来てかなり刺激的な街ではないが、住むのには適した街ではある。そんな比較的安心して暮らせる国に住んで感じることは、自分がコントロールできない将来の心配ばかりするよりも、まずは今自分ができることに焦点を当て、今を楽しもうということ。もし何かやりたいと思ったときは、そのタイミングが旬なのであって、年を取ってからそれが楽しいとは限らないし、先延ばしする理由もない。

昔読んだ「夜のピクニック」という小説の中で、『おまえにはノイズにしか聞こえないだろうけど、このノイズが聞こえるのって、今だけだから、あとからテープを巻き戻して聞こうと思ってた時にはもう聞こえない。今は今なんだと。今を未来のため”だけ”に使うべきじゃないと』という言葉があったが、今はその言葉に共感できる。


4. 最後に

先に述べたように、フィンランドは安定した住みよい国ではあるが、それでも外国人として暮らすと特に、将来は不確実だし不安定な問題、困難も次から次へとやってくる。

経営学の起業家論の分野に、「コウセーション(Causation)」と「エフェクチューション(Effectuation)」という、二つの対になる理論がある。ごくシンプルに言うと、コウセーション(Causation)の考え方では、どんな結果・成果が欲しいのかをまず初めに設定し、それを達成するためには、どんな戦略を用いて何をしなければならないか、を考える。

一方、エフェクチューション(Effectuation)の考え方では、自分にはどんなリソースや手段、人脈などがあり、それらを用いて何ができるのかを考える。そして、その時の流れに従い、出会う人や予想外の出来事を活用していく。

この国での生活においても、この2つの考え方をうまく取り入れてミックスさせていけばいいんじゃないかと、最近思う。色々細かな計画を立てすぎても、将来どう状況が変わるかなんてわからない。目の前の出来事を楽しみながら全力で取り組んで、時としてフレキシブルな姿勢で過ごす。そうすると、いろんな人や出来事と不思議な縁がある、ということに気づいたフィンランド生活でもある。

自分はまだこの国で大きなことを成し遂げたわけでもないし、今が100%満足している状態でもない。ただ一つ誇れることは、これまで自分で選択して、それを信じたこと。なんだかんだ、それを楽しんでいる自分もいるから、フィンランドという国はやっぱり水があっているんだろう。

 

*フィンランド大学院留学記(過去記事)はこちら

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